上野の杜にある近現代建築を訪ねて No.1:東京国立博物館 表慶館

古今の名建築が妍を競う、東京国立博物館。中でも、優美なたたずまいでひときわ目を引くのが表慶館だ。明治時代のものながら、現代建築に比肩する堅牢さを持つ不思議。その理由と美しき意匠に迫る。

作成: 上野文化の杜

撮影/白井亮

東京国立博物館表慶館:設計図上野文化の杜

皇太子ご成婚を祝した「奉献美術館」

1872年に発足した日本で最も歴史のある博物館、東京国立博物館。1881年、現在の場所に英国人建築家ジョサイア・コンドル設計の本館が開館。その後、1900年に行われた皇太子(後の大正天皇)のご成婚を記念し、政財界を中心に、国民から広く寄付を募って新たな美術館の建設が計画された。それが、この表慶館だ。本館の隣に「奉献美術館」との呼び名で1901年に着工され、1908年に竣工。「表慶館」と名づけられ、翌1909年に開館した。

写真:奉献美術館設計図(片山東熊:明治時代)。提供/東京国立博物館

東京国立博物館表慶館:意匠図面上野文化の杜

奉献美術館中央円形天井 弐十分一縮図(片山東熊:明治時代)。提供/東京国立博物館

東京国立博物館表慶館:建設工事上野文化の杜

西洋建築の草分け、片山東熊が手掛けた三つの博物館のうちの一つ

設計を担当したのは、宮内省の技師であった片山東熊。ジョサイア・コンドルの教えを受け、訪欧により現地の最新技術も学んできた片山は、日本における西洋建築の草分けであり、宮廷建築家として知られる。旧帝国奈良博物館本館、旧帝国京都博物館などに続いて手掛けたのがこの表慶館であり、片山設計で同時期に建設されていた赤坂離宮(現・迎賓館)も1909年に竣工した。

写真:奉献美術館建設工事写真(明治時代)。提供/東京国立博物館

東京国立博物館表慶館:過去の外観上野文化の杜

1908年(明治41年)10月に献納された当時の表慶館。提供/東京国立博物館

東京国立博物館表慶館:現在の外観上野文化の杜

赤坂離宮へと続くネオ・バロック様式

それまで片山が手がけてきた奈良や京都の博物館から一歩進み、様式や意匠の統一感が高まったとされる表慶館。西洋建築の伝統的なスタイルである、中央部に大ドーム、両翼に小ドームを備えた左右相称の形が美しい。赤坂離宮のための習作のような存在として、華やかな装飾を取り入れたネオ・バロック様式の採用や意匠など、共通点も多い。

撮影/白井亮

東京国立博物館表慶館:外壁のレリーフ上野文化の杜

外壁にあしらわれたレリーフは赤坂離宮にも見受けられる。

撮影/白井亮

東京国立博物館表慶館:正面外観上野文化の杜

関東大震災に耐え、現在も揺らがぬ堅牢な建築

皇室献上の美術館ということもあり、建設前には地盤検査が行われた。予想外に弱かったため基礎工事は入念に行われ、躯体はレンガ造で外壁に花崗岩を貼った堅牢な造りとなっている。おかげで、関東大震災では本館が大きな損傷を被ったにもかかわらず、この表慶館は全く被害を受けることがなかったという。2005年の調査でも耐震補強などの必要性がほとんど生じず、明治時代の建物としては稀有なほどオリジナルの姿を保っている。なお、1978年には重要文化財の指定も受けている。

撮影/白井亮

東京国立博物館表慶館:鉄骨上野文化の杜

ドームの構造は当時最先端の鉄骨

構造に関して見逃せない点がもう一つ。それは、ドーム部分に当時最先端だった鉄骨が使われているということだ。軽量かつ丈夫な造りの鉄骨は、現在まで取り換えられることなく現役で使われている。鉄骨は、カーネギーホールで知られるカーネギー社の刻印のある輸入品。それに木組みが施され、内側から漆喰が塗られ仕上げられている。ドーム外側は、青銅の銅板葺きの屋根となっている。
※ドーム屋根裏は非公開

撮影/白井亮

東京国立博物館表慶館:中央ホール上野文化の杜

建物随一のフォーカスポイントを誇る大ドーム

内部に足を運んでみよう。建物中央の入り口から中に入ると、そこに広がるのは吹き抜けの中央ホール。周りの回廊は、1階には四角い方柱、2階にはイオニア式の円柱が連なっている。漆喰で仕上げられた壁面にはレリーフのほかに、影を描いて立体的に見せただまし絵的な仕上げも見られる。ドーム中心には色鮮やかなステンドグラスが。1階床面には、フランス産の7色の大理石を使ったモザイクタイルによる装飾が施されている。
※内部は特別展開催時のみ入場可能

撮影/白井亮

東京国立博物館表慶館:ドーム上野文化の杜

撮影/白井亮

東京国立博物館表慶館:モザイクタイル上野文化の杜

撮影/白井亮

東京国立博物館表慶館:レリーフ上野文化の杜

撮影/白井亮

東京国立博物館表慶館:だまし絵的装飾上野文化の杜

撮影/白井亮

東京国立博物館表慶館:ステンドグラス上野文化の杜

撮影/白井亮

東京国立博物館表慶館:階段室上野文化の杜

優美な曲線が連なる階段室

建物の両翼にある小さなドーム部分は、ともに階段室となっている。直線的な造りの展示室を抜けてたどり着く階段室は、優美な曲線が続く意匠が印象的だ。壁面には、建物のさまざまな場所に繰り返し登場する花のようなモチーフも。連続模様が美しい手すりは鋳鉄製で、真鍮の笠木が付けられている。石敷きにモザイクタイルが組み合わされた床面も、繊細な作りで目を引く。

撮影/白井亮

東京国立博物館表慶館:階段上野文化の杜

撮影/白井亮

東京国立博物館表慶館:獅子像「阿」上野文化の杜

東洋と西洋の様式が交差

本格的な西洋建築でありながら、日本らしい趣を残している装飾もある。その代表格が、入口両脇に鎮座する獅子像だ。表慶館を守るかのように置かれた獅子像の口元は、狛犬さながらに「阿形」と「吽形」の形をしている。また、関東大震災で被害を受けた本館を建て直すとき、「日本趣味を基調とする東洋式」というコンセプトがあり、現在の本館が作られたとのいきさつも。西洋と東洋の美が出会う近代建築がここにある。

撮影/白井亮

東京国立博物館表慶館(獅子像「吽」)上野文化の杜

撮影/白井亮

提供: ストーリー

提供/上野文化の杜新構想実行委員会 
 
協力/東京国立博物館
  
取材・文/鈴木糸子

撮影/白井亮

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
ホーム
発見
プレイ
現在地周辺
お気に入り